「延びたらしいですね、Windows 10」
先日、あるクリニックでこう言われました。
たしかに、そのとおりです。
Windows 10の通常サポートは2025年10月14日に終了しましたが、その後も有償の「拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)」を利用することで、対象となるWindows 10端末は最大3年間セキュリティ更新を受け続けることができます。
その場では「そうですね」とお答えしました。
ただ、帰り道でずっと考えていたのは、別のことでした。
「期限が延びたことで、いちばん危ない端末が、いちばん見えなくなったのではないか。」
今回は、Windows 10の延長サポートに潜む「院内の死角」についてお話しします。
Windows 10のサポート終了という話題になると、たいてい「何台買い替えないといけないか」という予算や台数の話になります。
受付、診察室、事務室のパソコンを数えて、予算を組んで、順番に入れ替える。
もちろん、これは必要な作業です。
しかし、台数を数えられて、「買い替える」という判断ができる端末は、院内ではむしろ安全な部類に入ります。
本当に危ないのは、その数にカウントされていない「見落とされがちな」端末です。
院内を実際に見せていただくと、台帳に載っていないパソコンが意外と出てきます。主に以下の3つです。
普段使わない端末は、存在そのものが忘れられがちです。
そしてこの中で、特に厄介なのが「装置に付いてきたパソコン」です。
「サポートが切れるなら、Windows 11に更新すればいいのでは?」と思われるかもしれません。
一般的なパソコンならそのとおりですが、医療機器に接続されているパソコンは、そう簡単にはいきません。
医療機器は、決められた構成で動作を検証したうえで提供されています。
そのため、利用者側の判断でOSを更新すると、メーカーが検証した構成から外れてしまい、装置メーカーから「その構成では動作を保証できません」と言われてしまうことがあります。
これはメーカーが意地悪をしているわけではなく、医療機器としての安全性を担保するための必然的な措置です。
つまり、こうした端末には、「Windows 11に上げれば解決」という選択肢そのものが取れないケースが多く存在します。
そしてさらに、こういう端末に限って、画像データを送るために院内ネットワークに接続されています。
ここが、Windows 10問題を単なる「古いパソコンの買い替え問題」にしてはいけない最大の理由です。
冒頭の「延びたらしいですね」に戻ります。
ESUは、サポート終了後もセキュリティ更新を受け取れる仕組みですが、「Windows 10のサポートが完全に復活した」と考えるのは危険です。
ESUはあくまで、「セキュリティ更新を受け取るための仕組み」です。
つまりESUは、「このまま何年でも使っていい」という仕組みではなく、「移行するための時間を確保する」ための仕組みと考えたほうが良いでしょう。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
「2025年10月まで」と言われていたときは、院内でも話題になっていた。
ところが、
「ESUがあるらしい」「まだ数年使えるらしい」
となった瞬間、話題から外れてしまう。
台帳を作りかけていた手も止まる。
買い替えの予算を検討していた人も、いったん保留にする。
危険が減ったわけではないのに、危険についての会話だけが減ってしまう。
ESUによって救われるのは、主に「計画的に移行できる端末」です。
構造的にOSを更新できない医療機器付属のパソコンは、延長期間ができても状況は変わりません。
それなのに「Windows 10はまだ使える」という安心感だけが広がり、対策が後回しになることで、院内の死角はかえって広がってしまうのです。
では、その更新できない端末を放置すると何が起きるのでしょうか。
まず、セキュリティ更新が受けられない端末は、既知の脆弱性が残り続け、ウイルスやランサムウェア等の侵入の「入口」になるリスクが高まります。
そして、その端末が院内ネットワークにつながっている場合、その1台を足がかりとして、別のシステムやサーバーへ攻撃が広がります。
止まるのは、そのパソコンだけとは限りません。
技師さんは撮影した画像を送れない。
受付は患者さんに説明できない。
診察室では過去画像を開けない。
場合によっては、診療そのものを止めざるを得なくなる可能性もあります。
診療の停止はそのまま収入の停止に直結しますし、復旧のための費用も発生します。
そして何より、患者さんからの信頼に関わります。
「普段使っていないから」「ただ動いているから」と放置した1台が、後から甚大なコストになって返ってくる可能性があるのです。
たとえ利用頻度が低くても、電源が入っていて、ネットワークに接続されている限り、リスクは消えません。
装置に付いてきたパソコンのOSを更新できないなら、打つ手はないのでしょうか。
決してそんなことはありません。
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」でも、サポートが終了した機器等を使い続けざるを得ない場合には、リスクを低減するための代替措置を講じるという考え方が示されています。
つまり、その端末そのものを変えられないなら、その端末の周り(ネットワークや運用ルール)を固めるというアプローチです。
たとえば、次のような方法があります。
こうした対策をとることで、「更新できないから何もできない」という無防備な状態から抜け出すことができます。
具体的な対策を始める前に、おすすめしたいステップがあります。
それは、院内の全端末を書き出し、仕分けをすることです。
最初から大がかりな資産管理システムを導入しなくても、まずは、紙1枚(Excelの表ひとつ)で構いません。
最低限、次の3つを整理します。
| 端末名 | OS・バージョン | 今後の扱い(分類) |
|---|---|---|
| 受付① | Windows 10 22H2 | ①買い替え |
| 診察室① | Windows 11 | そのまま使用 |
| 診察室② | Windows 11 | そのまま使用 |
| CT操作用 | Windows 10 | ③構造的に更新できず、周辺対策が必要 |
| 予備機 | Windows 10 | ②ESU等を検討 |
大切なのは、パソコンの台数を数えるだけではなく、端末を以下の3つに仕分けることです。
全部を「Windows 10だから買い替え」と一括りにすると、かえって話が進まなくなります。
それぞれの端末で「やるべきこと」が違うからです。
さらに、この仕分けリストを一度作っておけば、次に別のOSのサポート終了がニュースになった際にも、慌てて調べ直す必要がなくなります。
最後に、ひとつだけ確認していただきたいことがあります。
もしすでに院内の端末リストがあるなら、そこに「装置の操作用パソコン」が載っているかを確認してみてください。
「CT用のパソコンだからメーカーの管轄だ」「X線装置に付いてきたものだから、うちのパソコンではない」と、自院の管理から漏れていないでしょうか。
医療機器としての管理と、IT資産としての管理を同じ方法で行う必要はありません。
ただ、「その端末が何のOSで動いていて、どのネットワークにつながっていて、誰が管理しているのか分からない」という状態だけは避けたいところです。
ESU(延長サポート)を利用すれば、たしかに期限を延ばすことは可能です。
ただ、延びたのは移行するための時間であって、院内の端末が自動的に安全になったわけではありません。
時間があるうちに数えて仕分けておけば、いざという時ときに慌てずに済みます。
まずは「その1台」を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
Q. Windows 10のサポートは、結局いつまで使えるのですか?
A. 通常のサポートは2025年10月14日に終了しました。法人向けのESU(拡張セキュリティ更新プログラム)を利用することで、対象端末に対して最大3年間、セキュリティ更新が提供されます。(※個人向けESUは仕組みが異なります。医療機関で利用している端末については、法人向けライセンスの条件を確認する必要があります。)
Q. ESUに申し込めば、そのまま使い続けて問題ありませんか?
A. ESUは重要なセキュリティ更新を受け取ることはできますが、通常の製品サポートが復活するわけではありません。新機能や一般的な技術サポートも提供されないため、あくまで「移行するための猶予時間を確保する手段」と考えるのが適切です。
Q. CTやX線装置に付いてきたパソコンのOSを、自分でWindows 11に上げてもいいですか?
A. おすすめしません。
医療機器は決められた構成で検証されているため、利用者側でOSを変更すると、メーカーの動作保証の対象外となる可能性があります。まずは装置メーカーまたは導入した販売店に、OSの対応予定を確認されることをおすすめします。
Q. 更新できない端末は、使うのをやめるしかないのでしょうか?
A. そうとは限りません。
ネットワークを分ける、インターネット接続を制限する、USB等の外部媒体の利用を制限するなど、周辺環境を見直す(代替措置を講じる)ことでリスクを低減できる場合があります。
「更新できない=何もできない」と考えないことが重要です。
Q. ネットワークにつないでいない端末なら、放置しても大丈夫ですか?
A. ネットワークから切り離されていれば、侵入リスクは下がりますが、USBメモリなどの外部媒体を介したウイルス感染の経路が残っている場合があります。また、「つないでいないつもり」が実際には接続されたままになっているケースもあります。
台帳を作る際には、OSだけでなく、どのネットワークに接続されているかも確認しておくと安心です。
Q. 何から手をつければいいですか?
A. まずは、院内の全端末を書き出し、以下の3つに仕分けることから始めるのがスムーズです。
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院内の「見えない1台」、一緒に確認してみませんか 台帳を作り始めると、たいてい、「この装置のパソコン、どう扱えばいいんだろう?」と迷う1台が出てくるものです。 |